足立哲の青春期モヤモヤの実質的原点『キラキラ!』

嫌いなタイプの異性にも関わらず、なぜか惹かれてしまうという、自分でもよくわからない現象に覚えがあるヒトは多いと思う。
もっとも、そういうのは一時的なものに終わることも多い。熱病みたいなものだ。
けれど、不思議と最初っから好みの異性との恋愛よりも、意識の上では長く残り続けたりするから不思議なものだ。

そして、この手の恋愛というのは、個人的な感覚になるけれど、若い頃ほど多いように思う。
歳を食えば食うほど、自分自身にも周囲にもこういう「自分の感覚と乖離した恋愛」にのめり込めるだけの気力や感情の起伏がなくなっていくのだ。
自分にも、自分の置かれた環境にも。
それは冷静になったともいえるけれど、それを単に成長と呼ぶべきかは今でも疑問に思う。

なにはともあれ、一番感情の浮き沈みが激しい学生時代の恋愛というのは、それが上手くいくか行かないかは別として、凄まじい。
大人の恋愛にはつきものの打算は皆無だし、タイプ云々もほとんど絡んでこない。
ちょっとなにかきっかけがあっただけでコロっといく、ほとんど生物としての本能のようなもの。
そんな本能だけで自分自身も、他人も、周囲の全てがうごくからこそ、学生時代のインパクトはでかいのだろう。良くも悪くも。

ここで紹介する『キラキラ!』(安達哲/週刊少年マガジン)は、そんな熱病のような青春期の恋愛を余すところなく表現した作品です。

内容は、主人公・杉田慎平と同級生のアイドル・戸田恵美里の恋愛を軸に、舞台である青晶学園の面々の文字通り熱に浮かされたような日々を綴る青春群像劇です。

この『キラキラ!』、芸能科といういかにも華やかそうな舞台設定と裏腹におっそろしくシビアかつダークなことが特徴です。
優等生である杉田慎平が、ただ華やかな恋愛をしたいがあまりに芸能科のある青晶学園に転校する…という一見カルい流れで、実際描写そのものはギャグを交えながら軽妙なのですが、とにかく二面性がすさまじい。
美男美女の巣窟でありながら退廃的で、一面ではひどく荒んだ彼らの生活ぶりは(ある意味でモロに女性誌や写真誌のスキャンダルそのものの世界観ではあるのですが)しがない一般人から見て羨ましいとは言い難いものですし、決して明るい気分になれるものではありません。
さらに言えば、学校教師に代表される大人たちにしても、(誇張されている面はあるにせよ)裏表丸出し。
理想と現実のギャップを、嫌というほど見せつけてきます。
作者の安達哲氏は、作風として見たくないものを敢えて見せつける部分がありますが、本作はまさに典型。

それが一番よく表れているのが、ヒロインである恵美里です。
一見、天使かといいたくなるような美女でありながら、本性はガサツな上に情緒不安定。さらに、本人の責任ではないとはいえ、数々の身辺問題も抱えています。
ハッキリ言って、関わりたくないキャラのまさに典型で、実際主人公もその同級生も、彼女にひっかきまわされ、傷ついていきます。
もちろん、彼女自身も満身創痍。
よどんだ空気に満ちた作品世界は、描写にせよストーリー展開にせよかなりえげつなく、とても憧れの恋愛とは程遠いです。

そんな内容ですから、連載当時読んでいて嫌悪感さえ抱いたことも一度や二度ではありませんでしたし、恵美里のキャラクター性自体も冷静に見れば苦手そのものでした。
ただ、この作品が不思議なのは、それにもかかわらず、恵美里が異様に魅力的なんですよ。
これ、別に色っぽい描写がどうとかではなかったと思います。
少年マガジンってもともとその手の描写を厭わないところがあり、特に本作は他作品以上にそういう部分が濃厚に描かれてはいます。やらしいとハッキリ言えるレベルで。
でも、本作については、そういう問題じゃないんですよ。
一言で言うと、青春期のモヤモヤの再現度が極端に高いんです。シミュレーションかって思えるほどに。
あの、理屈がまったく通じない、感情だけでうごく、まだ動物としての性質の方が強かった頃の。

ハッキリ言えば、本作の魅力と特性はそこに尽きます。
この雰囲気の再現度がなければ、多分恵美里は「ただのやっかいな女性キャラ」で終わっていたと思うし、作品自体もただ陰鬱なだけで終わっていたでしょう。
それが(内容上、とてもアニメ化などは不可能とはいえ)連載当時、それこそ本物のアイドルのようにコアな恵美里ファンを多数生み出した原動力だったと思います。

かなりトラウマ系の内容ですが、理屈で語ることの不可能な、学生時代の「アタマのカーッとなるような恋愛」をもう一度疑似体験したいならぜひ。

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