漫画家っていう職業の方々は、その得意分野に関わらず、ある程度の活動歴を経るにつれて画風や作風に変化が生じてくるものです。
その結果「やべえ、こんな作家さん何で見過ごしてたんだ」となる場合もありますし、逆に「昔はよかった…」になってしまう場合もありますが、いずれにせよ変化自体は当たり前のこと。
変化の大小こそあれ、まったく変わらない人はほとんどいないはずです。
むしろその点では、まったく作風を変えずに頑張っている作家さんはある意味すごいとさえ言えます。
さて、お色気系においてもそれは同様で、昔見たことのある作家さんがまったくテイストのちがう作品を描いていたりというのはザラにあります。
ただ、それを踏まえた上で最近驚かされたのが、佐野タカシさんです。
この方もかなり活動歴の長い方ですが、わたしの印象としては「ちょいギャルよりのキャラによる、健康的かつ明るいお色気」を得意とする作家さんだったんですよ。
かつてヤングキングでやってた「イケてる2人」なんかが典型ですが、正直当時のわたしは、この作品の雰囲気にイマイチハマれず、そのままかなり長い間彼の作品は目にしてなかったんですよね。
で、先日たまたま目にしたわけですが、この人、いつの間にこんな作風になったんだ、と。
とはいっても、お色気系なのは変わっていません。
ただ、かつてとはくらべものにならないほど、「淫靡」という呼び方がぴったりくるノリになってたんです。
割と多くの雑誌で描かれてるようでテイストは作品ごとに幅があるんですが、どれもこれもかつてより遥かに湿り気が強いし、描写そのものもそっちに特化したものになってました。
特に、主婦モノが強烈。
実用性の方はいうまでもありません。
そんな近年の佐野氏の主婦系作品群の中でも、比較的かつてのコメディ色を残している連載作品が、『今宵、妻が。』(漫画ゴラクスペシャル連載中)でしょうか。
冴えない中年男、健司とまだ年若い美人奥さん・楓の新婚生活…ぶっちゃけ言えば夜の活動模様を連作で描いたものです。
オヤジ系漫画誌はアクションにせよ何にせよ、もともと娯楽に徹したストレートな作風がうりですが、本作はお色気方面においてまさにその方針そのまま。
主要読者の年齢層の欲求に忠実な内容です。
特徴としては、異様なまでの健司の妄想力と、それに現実に応えてくれる楓さんの反応っぷり。
むろんお互い合意の上、しかも夫婦関係なんですから、やましいことは何もないんですが、なまじ楓が見た目は清純派そのものの美女だけに、異様にそそります。
典型といえばこれほど典型な話もないんですが、「こんな奥さんが、実は…」を地で行ってます。
描写そのものも、一般誌の成約があるものの、その範囲内での限界レベルと言っていいでしょう。
そうした完全にお色気重視ながら、本作は後味に関してもなかなかいい。
というか、ここまでラブラブだともう何も言えないって感じです。
これが中途半端にシニカルなカップルとかだったりすると、「爆発しろ」ってことになるんですが、本作はその余地さえない。
あまりに幸せそうで、読者としても「お…おう」としか言えないのです。
で、それがなかなか気分が悪くないんですよね。幸せおすそ分けって言葉がありますが、あれと似てるかも。
正直、連載作品として考えるとマンネリといえばマンネリなのは確か。
でも、最近のようにむしろ捻りの効かせすぎな作品も少なくない中では、こういう作品はある意味貴重だと思うのです。
某国民的日曜夕方アニメのオトナ版と考えてみれば、素直によさを味わえるのではないでしょうか。