CLANNADと言えば美少女系ブランド、Keyが放った作品群の中でも、とりわけ突出して人気の高い作品と言っていいでしょう。
ただ、そうした客観的な評価は抜きにして私個人の個人的な感想をいうと、この作品、二度と手に触れたくない作品でもあります。
本作の人気の原動力は、やはり普段この手の作品に馴染みのない層にも訴求する受け皿の広さがあったことが大きいでしょう。
それまでのKey作品は、レーティングの問題はさておき、良くも悪くも特有の萌え業界的な世界観を受け入れられる層にターゲッティングされている印象が強かった。
一方、CLANNADの場合、もともと全年齢向けとして開発されたことが大きかったのでしょうか、確かにそうしたKeyならではの要素も色濃く引きずってはいるものの、表現手法などの点で明らかに洗練されています。
それに何より、ストーリーの軸がより身近なものになっているのが大きい。
ジャンル上、描写が現実離れしているのを差し引いても、自身の身近に置き換えて感動しやすくなっており、それだけ幅広い層が受け入れやすいものに仕上がっていました。
そんな作品に、なんで触れたくないといった感情を抱くのか。
先に断っておきますが、それは決して気に入っていないからではありません。
読んでいて不覚にも涙ぐんだこともありましたし、音楽などは演出としても曲単体としても抜群です。
ただ、問題は、その感動の物語の方向性。
確かに涙ぐませるだけの実力は十分すぎるのですが、その味わいがひたすらに苦く、語弊を恐れずに言うなら「怖い」のです。
むしろ、美少女要素やあからさまな萌え要素、コメディ要素といった盛り込みすぎじゃないかとさえ思えるようなてんこ盛り状態さえ、それをカモフラージュするためのものだったんじゃないかと思えるほどに。
家庭関係の不全を抱え、倦んだ日々を送っていた主人公。
内容は、彼が病弱の少女、古河渚とその家族たちに出会ったことをきっかけに再生していくまでの物語をメイン、周辺の女の子たちや悪友との人間関係をサブに描かれています。
で、サブの方はいい。バラエティも多彩だし、学生の恋愛もの・感動ものとして、どのストーリーも(一部明らかにサブ扱いのシナリオも含まれるとはいえ)うまくまとまっています。
落とす部分はしっかり落とし、アゲる部分はしっかりアゲるといったようにシナリオの緩急も見事で、それぞれのストーリー一本でも、なまじっかな作品は太刀打ちできないでしょう。
もちろんハナから感動が前提の話ですから、演出なども含めて相当にクサい。でも、それはそもそもKeyのお家芸ですから、そこに突っ込んでも始まりません。
斜に構えずに楽しむなら、みみっちい話をすれば、相当のお得感があるはずです。
が、問題はメインである古河渚とのシナリオ。
「挫折と立ち直り、そして家族」といった本作のテーマを凝縮したような話は、確かに完成度は非常に高い。
シナリオそのものが卒業までと卒業以後に分割されており非常に長大なのですが、展開もKeyにしてはかなり早めですし、飽きさせません。
泣きどころもサブシナリオとはくらべものにならないほど多く用意されています。
が、このシナリオ、とにかく「挫折」の部分の印象が異常なまでに強いのです。
先ほど展開が早いと書きましたが、このシナリオ、怒涛の勢いで次から次に不幸や困難が襲い来るのです。
ひとつ抜けだしても、立ち直っても、また次、さらにその次。
しかも、その一つ一つが現実寄りなため、ひたすら生々しいのです。
それが極限に達するのが、いわば後編にあたる卒業後のシナリオ。
実社会に近くなった分当たり前と言えば当たり前なのですが、本作の場合、それは味付け程度。
直接書くのは憚られますが「恋愛において、将来にわたって最も起こって欲しくない事態」が、その帰結まで含めて、リミッターを外れた徹底ぶりで描かれます。
しかも、Keyお得意のファンタジー的な要素はここに限ってまるでなし。描かれる不幸は、はっきりと「ありうる」範疇のものです。
現実的な不幸の嵐という点だけを見れば昼メロに近い脚本構成とも言えますが、本作の場合、昼ドラお得意のあざといショック要素といった安易さもみられません。
きわめて生真面目に、「最悪級の不幸」を淡々とつづる。
だから余計に後味が悪いし、読み手の心理をこれでもかと追い詰めてきます。ホラーでも何にもないのにも関わらず。
他のシナリオと比べてもダントツに長いこともあって、読んでいるうちにまるで自分がいたぶられているような気持ちになってきます。
特に、現在恋愛中・結婚済みの方へのダメージはより大きいはずです。
そんな渚シナリオには、バッドエンドとハッピーエンドが存在します。
バッドエンドは、シナリオを普通に進めていくと到達するルート。
一方でハッピーエンドは本作におけるトゥルーエンドとしての位置づけになっており、他シナリオも含めた一定条件をすべて満たした場合に発動するエンドです。
話のテーマから考えて、制作者がより描きたかったのは、多分ハッピーエンドの方なんでしょう。
実際、そこでの祈りにも似たメッセージは、ひたすら真摯なものです。
ただ…このハッピーエンド、複雑な気持ちになった人もそれなりにいるのではないでしょうか。
私もそうでした。何故なら、このハッピーエンド、本シナリオには珍しく、空想的な要素が色濃く入ったものなのです。
それまでひたすらリアルな鬱展開を繰り広げてきた末にこれですから、どうやっても付けたしのような印象になってしまう。
わたしも、ひとつのifとしてしか受け取れませんでした。
そして、こうなると、もうひとつのバッドエンドの方ばかりが印象に残ってしまうというわけです。
自分では絶対に味わいたくない、でも可能性が0ではない、救いようのない未来。
実際のところ、変に自分に引き付けて想像してしまわなければ、本作は純粋なエンタメ作品、メロドラマとして非常に高クオリティです。
ただ、自らドツボにハマる形で鑑賞すると、インパクトは凄まじく、ホラーとは違った意味で身が凍えます。
ある意味で現実よりも痛々しい、作り上げられた人工の悲劇。
その中で描かれる「挫折」を、そして「家族」をどうとらえるのか…。
考えようによっては、それは自分自身の願望と先々への希望を、逆説的に映し出しているのかもしれません。
それがあるからこそ、このゲームは「恐ろしいモノ」たりえるのですから。