子供向けだからこそ作れたメンタルタフネスの基本書『レジリエンス入門』

このブログでも紹介しているのであまり言えないが、根本的なところで私はビジネス書や自己啓発書の多くに対してあまり好感を持っていない。
読むこと自体は多いにも関わらず、である。

もちろん、存在意義を否定する気は毛頭ない。
名著だなと思うものがあることは確かだし、実際にそこで紹介されているテクニックが役立つことだってある。
ただ、信頼度云々は別として、いかんせんエリート意識が鼻につくのだ。

特にAIが取りざたされるようになってからは、どこもかしこもやれクリエイティブだ、イノベーティブだとうるさくて、読んでられないことも多い。
あからさまにホワイトカラーのエリートだけがわたしのお客様ですよ、みたいな姿勢が行間からプンプンするのだ。
確かに最初っからターゲットを絞るのは著者の自由だけれど、わざわざこの手の本を必要とする立場の人間にとっては、嫌みっぽいことこの上ない。

そんな中でも、特によろしくないと思うのが、メンタル関係の本。
具体的に書名を挙げると差しさわりがあるけれど、たとえばエリート層がいかにメンタルを鍛えているのかとか、まあ、その手の本だ。

一応断っておくと、これも、確かに手法としては参考にならないわけではない。
向き不向きがあるのはやむをえないけれど、むしろノウハウ集としてかなり頑張ってる本もあるのは認める。

けれど、他の系統の本にもまして、この手のメンタルテク本は、「よっぽど会社で自由にできる、ガチのエリート層」しか使えないようなものが平然と並んでいて、とても実行できなかったりすることも多い。
この手のノウハウを必要とするのは、むしろ「まだエリートになれてない、日々のストレスに耐え切るための手法を学びたい」層なはずだ。
会社首脳陣にストレスがないなんていう気は毛頭ないけれど、少なくとも今からこの手の本をわざわざ読まなければならないような状態なら、そもそもそんなところまで上り詰めてないだろう。

そういう読者層を置いてきぼりにしたご高説を上から目線で延々と語られるわけで、メンタルテクを学ぶ以前に、むしろその本の存在自体が心をイライラさせる原因になってしまったりする。

その意味で、意外な名著といえるのが、「レジリエンス入門」(ちくまプリマ―新書)。レーベルから見てもわかるように、子供向けの新書だ。
単体のレジリエンス本として見た時に、この本のメリットは、ターゲットの限定がきわめて少ないこと。
そもそも子供向けということが幸いして、仕事に限定していないのだ。当然、エリートもへったくれもない。
もちろん、テーマがテーマだけに多少鼻につくところはあるけれど(なんでか知らないけれど、この手の本はほぼ例外なく妙にトゲのある書き方が多い傾向があるように思う…)、充分許容範囲だろう。

内容的には、どちらかと具体的ノウハウというよりは考え方重視。
レジリエンスは言ってみれば認知療法的な考え方をはじめとした雑多な周辺知識と技術を「精神のタフさを上げる」という目的に沿って集め、組み合わせたという側面がある。
この本ではそれらをかみ砕いてフォローしたという感じ。
わかりやすさに関してはさすがに子供向けレーベルだけあって、この手のジャンルの本がはじめてでもスラスラと理解できるはずだ。
マインドフルネスなども簡潔ではあるけれどカバーしているので、この周辺の知識を短時間で得たいのならファーストチョイスと言ってもいい出来になっている。

一方で、欠点として、一般向けビジネス書のように、具体的なテクニック事例は限られている。
だから、「実際にどうやればいいのか」をたくさん知りたいのであれば、正直物足りないだろうとは思う。
ただ、それでもこの手の本でまず触れられているような基本中の基本というテクニックは抑えているから、これだけでも試すことはできるだろう。
そもそも「入門」なわけであれこれ手を出してもかえって混乱する恐れもある。
だから、レジリエンスってどんなもんなんだろうな、と思っているくらいの初心者がまずは試してみようという時には、この数の少なさは決して悪いものではないんじゃないかと思う。

レジリエンス関連本では何気によくレビューの話題にもなる本だけに、ビジネス系でウンザリして読むのをやめたような方は是非一度見てみる価値はあると思う。
ただ…本自体の出来とは全く関係ないことは承知の上で書くけれど、こういうテーマの本が、子供向けに出される世の中ってなんなんだろう?
タイトルからして、「レジリエンス」という単語を知っていることが前提だろうけれど、今時の子供はこういうメンタルトレーニングを、年端もいかないうちから知っておかないといけないような状況にあるのだろうか。
そうだとしたら、今の教育って、どこか根本的なところで間違ってないか?
以上、良書であることは認めたうえで、敢えて根本的な疑問を呈しておきたい。

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