艶やかさと羞恥のコントラスト『夜明け後の静』

恥じらいがなければお色気なんて感じない。
程度の差こそあれ、これは、男性向けのお色気を扱うあらゆる国産作品においての不文律でしょう。
大人向けでも羞恥モノがそれだけで一大ジャンルをなしていることを考えれば明らかです。
海外だとそもそもこうした恥じらい表現自体が不可能な国もあるようですが、そういう意味では日本に生まれてよかったなあってのが筆者の正直な感想です。

さて、そうはいっても、女性の羞恥というのは、それ自体はいくらお色気ものでも、それが青年誌までの範疇に収まる作品である限りはあくまでも盛り上げの材料に使われる程度で、それ自体がメインテーマになることはあまりなかった気がします。
発想が、やっぱいかにもそれっぽいからですかね。
そんな中、「夜明け後の静」(石川秀幸/集英社ヤングジャンプ)は、まさにその羞恥を大々的に押し出しているという点で、ある意味大胆な作品です。

内容は、明治維新後、それまで社会の上位にいた士族たちが無残に転落していくさなかで、まさにその没落士族の家に生まれた主人公・静が医師になることを志し、女学校で懸命に奮闘する、というもの。
時代の流れから取り残された立場を描いているだけに、妹を学校にやるために吉原で働く姉の存在など、そこかしこに悲哀が感じられるのが特徴です。

そういう点から言えば、色んな意味で今後の展開が楽しみなのですが…今のところ、読者のインパクトの大半がただただ静の恥ずかしがりっぷりで占められる状況になっております。
悪く言えば、現状では何がメインテーマなのかよくわからない作品なんですが、ハッキリ言えることとして、羞恥主体のお色気ものと割り切ってみるならば出来がガチでいいこと。
羞恥ものの特性上、その出来はシチュエーションもさることながら、女性の表情描写にかかってくる部分が大きいのですが、これがうますぎるのです。
それに加えて、没落したとはいえ士族出身の静はプライドも高いのですが、それだけに余計に真っ赤になった顔との落差がすごい。

そこにきて、さらにネタそのものが相当あざとい。
初めて乗る自転車のサドルの圧迫感で感じてしまうわ、マッサージでイきかけるわ、とにかく「はぢめての目覚め」的な感じの寸止め描写の連発で、静の心中を想像するとそれだけでヤバいものがあります。
そのかわり直接的な描写は今のところ全くないのですが、その点にこそ、わたしとしては「作者わかってるなあ」と思うのです。
大人向けのものでは顕著ですが、羞恥系作品は行為そのものよりも、いかにいい恥ずかしがりっぷりが見られるかが重要なんですから。
逆に、変に読者ウケを狙って直接的な描写を入れたら、多分バランスが崩れると思うんですよね。

画風としては萌え系でもかなりスッキリしながらも繊細な部類。比較的さらっとした描き方ですが、和服主体なだけになおさら艶やかな印象が強い。
女子高が舞台なこともあって、お色気とは別に華やかさも楽しめる作品になっています。
キャラクターの描き込み次第でこれからまた印象が変わって来ると思いますが、
本来相当ダークな舞台設定を、これからどうお色気と両立していくのかという意味でも、期待して見守りたい一品です。

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