毎日の仕事や作業に追われている中、ふとどこかに出かけたい気分になることが誰にでもあるのではないかと思います。旅行が長期休みの定番行事になったり、連休に温泉に行くのが人気なのも、そういう心理からでしょう。
とは言っても、普段はこうした旅系統の気分転換ができないかというと、それは違います。
もちろん大規模な旅は時間的にもお金的にもなかなか難しいですが、逆に言えば、ちょっと遠出したり、普段いかないエリアに行ってみるくらいはいつでもできるのです。
こういう小旅行は、思った以上に気分が変わったりするので、特にやることが思いつかない休日などには特におすすめです。
本記事では、そんな中でも首都圏の方にとって非常に特異性のある路線・鶴見線を取り上げます。
首都圏の意外な「非日常」路線、鶴見線
鶴見線はJR鶴見駅から海沿いの工業地帯を走る通勤路線で、休日は首都圏の路線であることが嘘のように空いています。
通勤路線、工業地帯の路線ということからもわかるように、普段からここに通っている方にとっては、非日常でもなんでもありません。実際、窓から見える車窓にしても、絵に描いたような工業地帯のそれです。
ただ、逆に普段から使っていない立場からみると、この鶴見線、数々の変わった特徴をこれでもか!と持っている路線なのです。
鶴見線の一大トピック・海芝浦駅
鶴見線は路線の特性上、特定の工場への通勤客を運ぶための支線が複数あります。そのため、路線図で見ると細い枝がほうぼうに伸びたように独特の形を形作っています。
この支線のひとつに、東芝の工場に向かう「海芝浦支線」があります。この海芝浦支線、浅野駅で本線と分岐後、2駅しかないごくごく短い路線なのですが、おそらく鶴見線絡みでは一番話題に上ることが多い、鉄板ネタでもあります。
その理由は、この支線の終点である海芝浦駅の存在。この駅、その位置自体が東芝の工場構内にあるため、なんと一般客は駅構内から出られないという変わり種なのです。
ただ、ネタだけの駅かというとそうでもなく、外に出られない代わりにこの駅には構内に公園が設置されており、こちらは一般客でも入ることができます。
駅も公園も本当に海の直上にあるため、臨海地帯の海を間近に存分に眺めることができます。遠目に鶴見つばさ橋を眺めてベンチでのんびりするのはなかなか奇妙な癒し加減。見える風景がなまじ都会そのものなだけに、なんとも不思議な気分が味わえます。
なお、もちろん鶴見線でしか戻ることはできませんので、発車時刻には十分にご注意を。
異様な雰囲気ではトップクラス…国道駅の超レトロ駅舎
鶴見線でもうひとつ有名駅を挙げると、鶴見の隣駅にあたる国道駅がまずその筆頭でしょう。
国道15号に面しているから国道駅、という直球極まりないネーミングですが、この駅、戦中の建物がそのまま今に至るまで使われているのが特徴です。
改築さえ一度も実施されていないという代物だけに、駅舎のレトロっぷりは折り紙付き。それも、よくある記念物指定を受けるような駅ではない、昭和初期を思わせるガチなレトロっぷりです。
レトロというと壮麗さとかそういうモノを思い浮かべてしまいがちですが、国道駅のそれはそうしたのとは正反対の、文字通りの意味での「古臭さ」です。なまじがっちりした作りなため、薄暗い構内は凄まじい雰囲気。ここまで徹底した雰囲気のスポットは、首都圏どころか各地を見ても稀です。
それだけに好みは分かれそうですが、気に入る人にはたまらない魅力があるでしょう。特に平成生まれの人がみると、一周回っていっそ新鮮さを覚えるかもしれません。
無人駅、密集する工場…鶴見線ならではの沿線風景
海芝浦駅はさておき、それ以外にも鶴見線は首都圏の鉄道としてはかなり特徴的です。
まず目立つのが、始発駅である鶴見駅を除いてはすべて無人駅である点。この時点で、ローカルっぷりもわかろうというものですが、そんなローカル地域でありながら工場ばかりがこれほど林立しているケースというのは首都圏でも珍しい(もちろん民家もなくはないですが、工場の比率が極端に高い)です。
逆に、それだけ工場ばかりだからローカルエリア扱いになっている可能性もありますが、いずれにせよ、その密集っぷりは圧巻。普段工場地帯を見慣れていないと、威圧感さえ感じる別世界です。
また、そんな工場地帯ならではの有名なネタとしてよく語られるのが、支線の終点の一つである大川駅。この駅、客車列車が90年代半ばまで使われていたことでも有名ですが、現在では日中まったく列車がやってこないというダイヤ設定で知られています。工業地帯の路線として割り切っても、ここまで徹底したダイヤは全国的にも珍しいです。
駅の周囲は完全に工場で囲まれており、その雰囲気もなかなかのもの。電車で出向くのはかなり難しいですが、本線からは歩いてもそこまでの距離はないので、沿線を歩くなら立ち寄ってみる価値はあります。
おしゃれさとは無縁!鶴見線の無骨な癒され感
繰り返しますが、鶴見線が特徴的というのは、あくまでも普段この辺りに来ない人間の視点です。もともとこの地域が職場だという方には珍しくもなんともない光景にすぎないでしょう。ただ、都心部や内陸部で普段過ごしている方にとっては、相当新鮮に感じるのではないでしょうか。
率直に言って、洗練とかおしゃれ感といった単語は、鶴見線には無縁です。ですが、だからこそのレトロさや、工場地帯ならではの無骨さが思う存分味わえます。
手軽に立ち寄れる路線ですが、その割には大きな癒され感を得ることができると思います。