帰りにCD屋によったら、ヴィジュアル系特集をやっていた。
高校の頃、インディーズ期の黒夢とか好きだった身としてはチェックしなければなるまい、とおもってざっとジャケットを眺めたところ、いや、さっぱりわからねえ。聴いた事も聞いたこともないバンドばっか。
ただ、どのバンドも、見た目に関してかなり気をつかっているのは非常によくわかった。見様によっては円熟の域ともとれる。洗練されたなあ、この手のバンドも。
日本発の一大カルチャー・ヴィジュアル系
いつか読んだ本に、ヴィジュアル系は一種の伝統芸能だ、みたいなことが書いてあって、その当時は「いや、伝統っつーほど歴史あるジャンルじゃねえだろ」みたいに思っていたけれど、そろそろそういう時期にさしかかりつつあるんだろうか。
実際、海外に進出したバンドもかなりのお客さんを集めてるようで、向こうの人たちからは一種の日本発の一大カルチャーみたいに思われてるのかもしれない。ただ、見た目のインパクトだけで受けたわけじゃないだろうということははっきり言える。海外はエンタメ関連については日本よりもむしろ審美眼も厳しいだろうし。その中で受け入れられたというのは、実力はもちろん、言語的なハンデを前提としたうえで、それでもなお「ヴィジュアル系」というジャンルとして認知されるだけの厚みがあったということだと思う。
扱いのひどかった過去のヴィジュアル系
そういう発展具合のわりに、ヴィジュアル系という存在は、なぜか日本国内では妙に肩身が狭い。実際、過去にはラルクのように、ヴィジュアル系と呼ばれること自体をかたくなに拒否していたバンドもある。
それが何でかと言えば、やはりヴィジュアル系というくくりが見た目からのもの、という点が大きい。特に初期は、売れるための足掛かりとして化粧をしたバンドが多かったこともあって、見た目だけ・邪道、といったネガティブな印象が、当のバンドメンバーからさえハッキリ伝わってきたものだ。実際、「俺ら、どうやってもヴィジュアル系なんですよね」といった自虐的な発言も、当時はいろんなバンドのインタビューで散見された記憶がある。
本人たちでさえそうなのだから、音楽ファンやメディアに至ってはなおさらだった。ヴィジュアル専門誌を除けば、そもそも扱わない、もしくは明らかにバカにした論陣を張る雑誌さえあった。バンドブーム中に一定以上の地位を築いたXなどは別として、それ以後に出てきたヴィジュアル系バンドは、そもそもの扱いからしてかなり劣悪な環境だったのだ。
ヴィジュアル系バンド躍進の原動力は?
それがここまでの発展を遂げるとは、その手のバンドがもともと好きだった俺もまったく想像していなかった。
その原動力はいくらでも推論できるけれど、思うに、「見た目だけのくくり」という緩いくくりが、逆にバンドごとの個性化を図るには好都合だったのもあると思う。もともと、ヴィジュアル系のバンドは、演奏のテクニック的にはかなり高レベルなバンドが少なくなかった。そこにきて、恰好さえそれっぽければ、あとはどんなジャンルの楽曲をやっても様になるというのは、考えてみれば強み以外の何物でもない。他の音楽ジャンルのアーティストの場合、音楽そのもののイメージがそのまま芸能人としてのキャライメージと直結している分、道を逸れることがやりづらい。その点では、邪道と思われていたのが、ある意味では幸いしたともいえる。
往年のヴィジュアル系といえば、ポップスかビートパンクか、あるいはヘビメタか…そのあたりのジャンルが基本になっていたけれど、今は正面から70~80年代のレトロな歌謡曲ルーツであることを全く隠さないバンド・海外ばりのヘヴィロックを訊かせるバンドなど異様に幅広い。実際、洋楽好きにジャケットを見せたらヴィジュアル系だとわかって驚かれる…といったことも多くなった。
時代が変わった。そういう感覚は、ファンとしてある。現在のヴィジュアル系は、それ自体が、様々な音楽的要素を内包しており、ある種テーマパーク的な、「何でもあり」の楽しさがあるのはゆるぎない事実だと思う。
ヴィジュアル系漁りで味わう意外性の驚き
…とかなり堅い感じで語ってしまいました。それにしても、このジャンルで明確に「ヴィジュアル」的要素を宣言した言葉ってX JAPANの「VISUAL SHOCK」だと思うけど、提唱されてからもう15年以上経って・・・歳食うはずだな、俺も。
アピールする層がかなり狭めなのは、昔と変わらないっぽいけれど、このジャンルはそれもまたひとつのよさですしね。専門誌購読してねえとわかんなくなるあたり。当然ながらレンタル店にあるわけもなく、インタビューが真実であることを信じてバクチ買いして。そんな調子だから当然はずれもあるけれど、時に音楽的に「おぉ?」とか思わされたりする意外性って、このジャンル特有のヨロコビのような気がする。
個人的に、結構最近そういうヨロコビから遠ざかってしまった気もするし、またその手の情報でも集めてみようかね、なんて思ったりするわけです。かつてに比べたらかなり円熟してきたとはいえ、ヴィジュアル系っていろんな意味でまだまだ若い音楽だと思うしね。