ゲーム誌の片隅で展開された戦慄の未来 『ゲーム・キッズ』シリーズ

ゲーム雑誌というのは面白いもので、初期はただの攻略本の一形態からスタートしたはずが、気が付いたら周辺の先進カルチャーまで手広く扱うようになっていた。
今でこそ純粋な情報誌になった感があるけれど、多分、20世紀終わりごろまではそうした気風のようなものは根付いていて、主要読者である子供にとっては、そうしたハイテク世界に触れる入口の一つになっていた側面があると思う。

渡辺浩弐氏の『ゲーム・キッズ』シリーズも、そうしたゲーム雑誌の一側面を代表する記事の一つだ。
もっとも、このシリーズが特徴的なのは、この手の雑誌でのハイテク記事の傾向に思い切り背を向けたことにあるのだけれど。

『ゲーム・キッズ』シリーズは、『ファミ通』に毎回1ページをとって連載されていた一話完結式のショート・ショート作品だ。
毎回、先進技術をひとつテーマとして定め、主にその技術が活用されるようになった世界を舞台としたSFストーリーが展開される。

1ページというスペースからわかるように、各話は短いけれど、情報の密度はものすごい。
文字数は取ろうと思っても取れない反面、未知の技術の概要を読者に的確に伝えた上でストーリーをオチまでつけて紡がなければならない。
その制約から、文章は簡潔かつドライ。その分、余計な描写は一切なく、切れ味もわかりやすさも超一流と言っていい。
読む時の感覚だけでいえば、星新一氏のそれに近いといえばわかりやすいかもしれない。
起承転結がはっきりした、ショートショートのお手本というべき構造を守っているだけになおさらだ。

ただ、星新一氏と大きく違うのは、本シリーズの徹底したダークさ。
シニカルさを効かせた皮肉なオチという点では変わらないものの、本作のそれは、星新一氏と違って欠片ほどのユーモアも感じさせない。
あるのは、先進技術がもたらしうる、真っ黒かつ薄気味の悪い未来像ばかり。
本作は、先進技術の暗黒面ばかりをひたすらフォーカスした、不吉な物語群なのだ。

SFとはいっても、本作ではいかにもな宇宙世界などを題材にしたエピソードは意外なほど少ない。
後期にはそうした長編などもシリーズとして出しているけれど、基本的には「先進技術が実用化された時代の日常」を舞台とした、地に足がついた設定が多い。
出てくる登場人物たちにしても、あまり現代との差異は感じさせないから、未来というよりはどちらかというとifの世界といった方が正しいだろう。
だから、読んでいてもあまりSF小説という感覚は感じさせない。

ただ、本シリーズのブラックさは、だからこそのものともいえる。
本シリーズは、言ってみれば「ハイテクの間違った使い方カタログ」といったものだ。
これが、読者と重なりようがないようなあからさまな未来世界だったら、あくまでも空想として読める。
けれど、本シリーズで描かれるのは、日常の恋愛だったり、夫婦生活だったり、娯楽だったりといった卑近な題材。
そこに先進技術が妙な具合に活かされた場合、どうなってしまうのかというレベルのものなのだ。だからこそ、どうしようもなく生々しい。

それゆえに、それぞれのテクノロジーの活かされ方の歪みっぷりは、とても笑えるものではない。
そんなタイトルばかりが軒を連ねる本シリーズは、それこそ目次からして不穏な空気が漂っている。

その間違いっぷりは、単なる悪用から倫理的な問題が生じるものまで様々だけれど、いずれにせよ人間という生物の、目をそらしてしまいそうなほど醜い一面を、鏡のように忠実に映し出す。
だからこそ、読後感は恐ろしく悪い。
どう転んだって、明るい未来を思わせてくれるような内容ではない。

けれど、科学技術というものを真摯にとらえるなら、こうした側面を無視することは決してできないのだろう。
実用化されてから「こんなはずじゃなかった」という発明は、人類の歴史上いくらでもあるのだから。
科学が万能だと無邪気に信じること、その考え自体が既に問題が潜んでいることを、決して説教くさくならずに心に刷り込んでくる本作は、ただポジティブに未来に向かって猛進する人々への、なによりも強烈なカウンターパンチなのかもしれない。

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