誰得な怪作の摩訶不思議な世界 ザ・ゲロゲリゲゲゲ「パンクの鬼」 

 

誰得、というネット用語がある。誰が得するんだこんなもん、という作品、あるいはストーリー展開などに対して割と広範に使われてる印象がある言葉だけれど、一方で軽く使われすぎかなあと思うこともある。人の好みなんてバラバラだから、ある人には誰得でも、例え少数でもそういうのが好きな人間というのが存在するからだ。

 

脅威的(悪い意味で)オナニー作品登場

とはいえ、それでもマジで的が狭い作品が存在するのも事実ではあります。

わたしが出会った中で例を挙げると、あるエロ動画がその最たるものです。11分くらいの短時間の動画。某月額サイトの短時間シリーズものなので短いこと自体は問題じゃないんですが、本作はそのシリーズの中でも非常に異色な一本です。

いかにも癖のありそうな中年女性が淡々とオナニーをこなすも、突然ブチ切れて撮影終了という、ドキュメンタリーチック(笑)な作品。あくまでチックというのがミソです。ドキュメンタリー系の作品自体はAVでもたまに見かけますが、この作品の場合は、いかんせんスケールの小ささが尋常ではありません。

女性もいかにもやる気がなく、スタッフもドン引きしているのが画面のこちら側の視聴者にまでひしひしと伝わってきます。短時間にも関わらず、嫌~なやるせない気分に強制的にいざなわれてしまう、この上なく倦怠感に満ち満ちた怪作です。世界は不思議でいっぱいだ。

インディーズ音楽は「誰得」の宝庫

とはいえ、こういう作品がなぜ存在しうるのかを考えたときには、この動画についてはまだわかるんですよ。そっち系統のサイトでも月額制が珍しくもない今では、こういう作品が一本くらい紛れてたところであんまり文句を言う人はいないでしょう(もちろん、他の作品がちゃんとしてることが前提ですが)。

なかにはこういうのが好きなユーザーも(相当限られるにしても)いるかもしんないわけだし、女優さんもなんだかんだで出た以上は金は貰っただろうし、スタッフにしても、見た目の動画本数は増やせるわけで。そう考えれば、まったくの無駄というわけではないんでしょう。

 

ところが、以上の理屈は結局損はないという前提があっての話であって、どう考えても無茶だろうという怪作が山のように存在する世界があります。インディーズ音楽の世界です。

インディーズというとなんかサブカルという感じがして聞こえはいいものの、要は自費出版。自分の財布が痛むわけですし、実際、ほとんどのアーティストはまずは売れることを考えながら作ってきます。…そのはずなんですが、その割には、先の動画以上に存在意義を問い正したくなる作品がズンドコ現れるのがこの世界の摩訶不思議です。

無意味にもほどがある ザ・ゲロゲリゲゲゲ「パンクの鬼」

そういう作品はインディーズの世界ではかなり昔から存在するわけですが、そういう諸作品の中でもぶっちぎりでわかりやすい怪作があります。ザ・ゲロゲリゲゲゲ「パンクの鬼」です。ちなみにジャケはなぜか漫画家の蛭子能収さん。

ジャンルは、ノイズ。知ってる人はわかると思いますが、最初っから最後までメロディらしいメロディもなく、ただひたすら絶叫やギターノイズが鳴り響き続ける、インディーズの中でも突出して前衛音楽的な、あのジャンルです。この時点でタイトルの「パンク」からは、音楽ジャンル的な意味合いはほぼ消え失せます。

ではどこがパンクかっつーと…多分、おそらく曲名です。念のため言っておきますが、以下の曲名はすべて、アルバムジャケットに堂々と印刷されています。

・サザ●さんとマス●のSEX

・B面の最初の曲

センズリ・オールナイト

センズリ・ジェネレーション

・センズリ・パンチパーマ

・タ●ちゃんのオナニー
…一応伏字にしましたが、某日曜夕方放映の国民的アニメを地に貶める暴挙。それ以外も、「バカ」の一言です。で、こんなタイトルですが、曲の中身自体はまったく関係ない。
まずボーカルが曲名を叫んだあと、ぐちゃぐちゃな演奏が1分弱続いて、それで終わり。アルバムの全てが、これで説明がついてしまいます。ちなみに、上に挙げたほか、「サウンドチェック」なる曲もあります。
なんでこれを出そうと思ったのか。売れよう…などと思ったわけでは断じてないでしょう。
かといって、それ以外の要因があったのかっていうと…笑いに走ってるわけでもないしな。
ただ、圧倒されるのはこのひとかけらも存在意義が見いだせない一品を、よりによって自費でドロップしようというその執念でしょう。
実際のところ、あんまりな曲名のおかげで、話のタネとしての使い勝手は上々なんですが。

「誰得」といってもエネルギーだけは本物

ただ、ゲロゲリゲゲゲに限らず、なんだかよくわからないエネルギーがこの手の作品から感じられるのは事実で。そのあたりは、筆者自身今でも説明ができませんけども、誰でも耳にして、現物を見れば圧倒されてしまうのは間違いないところでしょう。
ハッキリ言って、「誰得だよこんなの」と言われてしまえばまったくその通りとしか言いようのない、どうしようもない作品たちです。ですが、単にストーリー展開が滑ったラブコメとか、そういう場面で使われる「誰得」とは、まったく意味合いが違います。
本気の無意味さというものは、ある意味では崇高ささえ感じさせるものなのかもしれません…無茶苦茶好意的に見れば、ですけど。
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