秋田港線に乗ってきた。
土崎駅から分岐して秋田港駅に至る、奥羽本線の貨物支線だ。
クルーズ船の乗船客限定で旅客列車が走っていることでも知られる。
年に一度、マリンフェスティバルの日のみ運行される秋田港線の「格安」券
では数十万円の大枚払ってクルーズ船に乗ってきたのかというと、そういうわけではない。
この路線、年に一度、秋田のお祭りイベントである「マリンフェスティバル」の2日間だけ、
往復1000円ちょい(2019年度は大人1200円、ひとりより申し込み可)の旅行商品で乗車できるのだ。しかも、きっぷには秋田駅ビルの買い物券500円分までついてくる。
つまり、実質的には片道350円。
さほど距離があるわけでもないけれど、これなら十分納得がいく…というか、
そもそも乗り合わせた明らかに乗り鉄らしきお客さんたちが、
「…これ、ほとんど鉄オタのために走らせてるようなモンですよね」
とうなづき合いながら語っていたくらいだから、もはやJRにとってはボランティアと言った方がいいかもしれない。
このチケット、駅で買うことはできず、2019年の時点ではびゅうトラベルサービスのHP経由でえきねっとで購入するという、なんともわかりづらいルートでの販売のみ。2019年度はJR東日本の秋田支社のHPで時刻表も含めてまとめて発表されたので、気になるなら7月が近づいてきたらチェックしておくべし。
酔狂の極み!秋田港線の乗車体験
実際のところをぶっちゃけてしまうと、この秋田港線、いざその体験を語ろうとするとかなり困ってしまう路線だ。
なにしろ、短い。
一応乗車時間こそ15分前後あるけれど、これには土崎までの区間と、土崎から秋田港線に侵入するときの信号待ちも含まれている。
その上、ファンへのサービスとして、秋田港線に入った後は、これ以上ないくらいの徐行運転が行われる。
それでようやく15分なのだから、どんなに短いかは想像がつくだろう。
その上、この路線、貨物線という時点で想像がつくように、景観がいいわけでもない。
走るのは思いっきり住宅街の中だ。
一応、港に近づいていくあたりの前面風景こそ一般的な路線と異なった雰囲気を持っているけれど、せいぜいそれくらい。あとは、乗る車両が五能線で使われていたリゾート列車を秋田港線用にカスタマイズした「あきたリゾート」号であることくらいだろうか。
つまり、この路線にわざわざ乗る価値というのは、「普段乗れない路線に乗っている」というレア感、それだけなのだ。
敢えて言ってしまうと、限りなくネタに近い。鉄オタでさえそう感じるのだから、一般の方にとっては酔狂以上のなにものでもないだろう。
ただ、沿線の方々にとってもこの路線を旅客列車が走るのは今でも物珍しいようで、
路上から列車にむかって手を振ってくれたりする地元の方々も多い。
それに手を振り返したりするのは、なかなか他の路線では味わえない体験と言えるかもしれない。
ちなみに、そういう列車だけに最前部の車両は割と混む。席が埋まるというわけではなく、単純にみんな、最前部にかぶりつきになってしまうのだ。肝が前面風景だから仕方ないのだけれど、正直なんともせわしないのも確か。前面風景にあまりこだわらないなら、普通の後部車両の方はガラガラなので、その分優雅な時間が過ごせるかもしれない。
セリオンタワーの夕日、横手焼きそば…手軽に楽しめる秋田港のポイント
さて、鉄道趣味だけでこの秋田港線にのってしまうと、なかなか目的地の方には目が向きづらい。
筆者も人混みが苦手なこともあって、当初はとんぼ返りすることさえ考えていた。
ただ、いざついてみるとなかなかこの秋田港、過ごし甲斐がある。
わたしは夕方についてしまったため回れたところは限られるのだけれど、
その範囲だけでいうと、まず港の中でもひときわ目立つセリオンタワーからの夕日。
一見すると入場料を取られそうな雰囲気がするけれど、
なんと無料だ。いかに懐がさびしかろうと、気兼ねなく入れるし、それでいて景色は見事だ。
たしかに六甲や函館の夜景のような華々しさはないけれど、
港湾に徐々に沈む夕日は、一言でいってシブい。
いぶし銀とでもいうべき満足感を与えてくれると思う。
主役である祭りの方に関してはあまり回る時間がなかったが、
お祭りの定番である屋台に関して言えば、秋田のB級グルメとして近年名高い横手焼きそばが
さりげなく提供されていたりする。
しかも、かなり本格的だ。
セリオンに入っている飲食店については、夕方に着くとほぼ閉まってしまっているが、
唯一、長年この地で働く人たちに親しまれてきたという「自販機そば」が、セリオンの横っちょ、
温室のような別館スペースに鎮座している。
今時自販機のそばというだけでもかなりレアだが、
これが思った以上にしっかりしたダシで、かなり行ける。
海鮮などを食べたいのなら早めの時間の方がいいけれど、
純粋に旅の空腹を癒したいというなら屋台とこのそばだけでも十分すぎる量だと思う。
マリンフェスティバルの華、花火大会の凝りっぷりを見逃すな
そして、マリンフェスティバルのハイライトが、
1日目の夜20時から開催される花火大会だ。
この花火大会、どうも年ごとに趣向を凝らしているようで、
2019年は水中花火オンリー。
確かに打ち上げ花火のような豪快さは少ないけれど、
その分演出には凝っていて、一種のステージショーのようだ。
クライマックスであるラストの花火に至っては、
音楽による演出もあって、見た目的にはほぼライブでも見ているかのような感じ。
むしろ打ち上げ花火しかみたことがないという方に是非見てほしい仕上がりだった。
こちらについては年ごとということもあり、
今後どのような方向性にするのかは不明だけれど、
いずれにしてもいわゆる大花火大会的なノリとは一味違った感覚を与えてくれることと思う。