季節柄、もしくは韓国ドラマのタイトルになったせいか、
「福寿草」がかなり話題を集めています。
ドラマの方はドロドロの愛憎劇で、
「福寿草」といういかにもめでたそうなタイトルが
似つかわしくないようにも思えるんですが、
実際シナリオを追ってみると、
いい塩梅で活かしてるな、と思います。
さて、この記事では、植物の方の「福寿草」が本題です。
福寿草とは実際のところどんな植物なのかを追ってみると、
めでたそうな顔以外にも裏の顔がありましたので、
その辺もまとめてみたいと思います。
福寿草(フクジュソウ)とは?
まず、福寿草(フクジュソウ)がどんな植物なのかから
見ていきたいと思います。
福寿草は、キンポウゲ科の多年草で、
別名として元日草や朔日草とも呼ばれています。
花が咲くのは春先に少しの間だけで、具体的には概ね2~3月に10日前後、黄色い花を咲かせます(地域によって、時期はかなり異なります)。
その後、夏まで葉をつけて光合成をおこなったあと、次の春まで地下で過ごします。
このような植物のことを春植物とも言いますが、
福寿草はその代表例とされています。
春植物は、一部では春の妖精とも呼ばれるそうですが、
一瞬だけ咲く性質からくる、
儚い雰囲気によるものかもしれませんね。
花は3~4cmの比較的小さなもので、さらに背丈も低いので、
正直言って地味と言えば地味です。
ですが、全体的にふっくらした雰囲気で、
個人的にはかなり気品のある花という気がします。
ちなみに、太陽の光や温度には非常に敏感な花で、
くもりになったり日が暮れたりするとものの数分で花がしぼみ、
日が当たり始めるとまた開くという性質を持っています。
ですので、鑑賞するのなら晴れている日に限ります。
しぼんでてもそれはそれでかわいらしいですけどね。
福寿草の由来と意外な花言葉
福寿草の名前の由来は、本当に文字通りで、
福(幸福)と寿(長寿)の文字を
組み合わせたものです。
この段階で非常におめでたい名前のため、
江戸時代より正月に福寿草と南天の実を組み合わせて、
正月飾りなどに使うのが習慣でした。
この風習自体は現在にも残っていますが、
江戸時代の旧暦の正月とは時期がずれてしまっています。
そのため、現在正月用として売られる福寿草は
基本的にはハウス栽培です。需要は高く、年末には正月用に夜店などでも鉢植えが売られていることがあるほどです。
ちなみに、正月に飾られるだけあって
1月1日の誕生花でもあります。
また、花言葉も
「永久の幸福」「思い出」「幸福を招く」「祝福」
と、いかにもおめでたそうなものが並びます。
ただ、一つだけ、「悲しき思い出」という異彩を放つ花言葉も持っています。
これは、英名「Adonis amurensis」に由来して
ヨーロッパで付けられた花言葉です。
Adonis(アドニス)とは、ギリシア神話の中で
イノシシに牙で突き殺されてしまう青年で、
「悲しき思い出」もこうした悲劇的なイメージを
反映したものと言えるでしょう。
ここで、なぜアドニスの名前が福寿草の名前になったのか
疑問に思う方もいるでしょう。
これは、ヨーロッパ、特に地中海沿岸部の福寿草が
赤い品種がメインで、
その色をアドニスの血になぞらえて
英名がついたためと考えられています。
取り扱い注意!福寿草の意外な側面
色々なイメージはあるにせよ、
日本では福寿草は基本的にはめでたい花とされています。
ところが、一点だけ、どう見てもイメージからかけ離れた顔を持っています。
ズバリいうと、猛毒植物なんです。
全体が猛毒ですが、特に根や根茎の毒は強烈。
時期的に、フキノトウと間違えて食べて
中毒になるケースがあります。
ただ、この猛毒成分ですが、強心作用などが認められるため、
一部で代用薬品として使用される場合もあります。
この書き方だと役立つ面もあるように思われるのですが、
問題は薬効のある使用量と致死量が異常に近いことです。
致死量は約0.7mg/kg。つまり、たとえ体重が100キロあっても、70mg食べれば死んでしまうということです。
これは、少しでも配合を間違えただけで
死んでしまうというレベルです。
そもそも、これで代用する「強心配合体」と言われる物質自体、
禁忌症状が多く(代表的なのが急性心筋梗塞)、
単に「心臓にいいらしい」で使えるレベルのものではありません。
実際に、心臓病の方が心臓にいいと聞いて飲用し、
そのまま死亡した例もあります。
大変にお気の毒な例ですが、ここからわかるように、
口に入れる目的では一般人は一切手出し無用と考えた方が無難です。
福寿草のかわいらしさを自分の目で楽しもう!
そんな物騒な面も持つ福寿草ですが、毒という1点を除けば、昔から親しまれてきた花です。日本では、園芸植物としての歴史も古く、江戸時代には既に園芸用の品種改良がおこなわれていたとされています。
最後に、実際に福寿草を楽しむ方法として、園芸品種や鑑賞スポットについて触れておきます。
色とりどりの福寿草の園芸品種
現在でも福寿草には、園芸向けの品種が複数開発されており、鉢植えとしても売られています。元旦に限らずおめでたい花なので、縁起をかついで自分で育てるのも面白いのではないでしょうか。
代表的なものでは、黄色い「福寿海」が一番メジャーでしょう。丈夫なこともあって、扱いやすい品種と言えます。
異彩を放つのが、「紅花」の異名を持つ「秩父紅」。名前のとおり秩父地方の固有種、かつ紅色(時期によってはオレンジ)をした品種で、ぱっと見では福寿草のイメージとはかけ離れていますが、
落ち着いた色合いにそこはかとない優雅さを感じさせる品種です。
名前がそのままの公園も!福寿草を見られる名所例
福寿草を直接鑑賞したいという場合ですが、福寿草は北海道から九州までに及ぶ広い範囲で分布しています。そのため、鑑賞スポットも全国に数多く存在しており、めぼしいスポットを見つけることは比較的容易でしょう。
そんな中で3か所ほど目立つところを紹介すると、まず長野の赤怒田福寿草公園。名前からしてまんまですが、シーズンになると50万株におよぶ福寿草が一斉に花開き、公園内の斜面を埋め尽くすのを鑑賞することができます。
次に、埼玉県の秩父にあるムクゲ自然公園。所在地からピンと来たかもしれませんが、こちらの公園では、前述した秩父紅が目玉の一つとなっており、まだ冬の寒さが残る中で紅色の花を元気に咲かせます。こちらの公園は秩父紅以外にも、一般的な黄色い福寿草など様々な花々を目にすることができるほか、美術館なども併設していますので、冬季のレジャーとしてもアリです。
最後に、福島県喜多方市の山都町沼ノ平地区。何故地区名なのかと思われるでしょうが、こちらは地区そのものが日本国内でも指折りの福寿草群生地なのです。その数、およそ100万株。数十分で回れるコンパクトな散策路が複数整備されていますので、ゆっくり見て回ることができるでしょう。ただ、難点は交通アクセスが非常に不便なこと。平日のみかつ予約制のデマンド交通しか公共交通機関がないため、基本はレンタカーなどで行くしかありませんが、国内最大という点に興味をひかれた方は、喜多方市内の観光も兼ねて訪れてみてはどうでしょう。
春先限定の小さな癒し
福寿草関連では、シーズンには福寿草にちなんだイベントを行う地方もありますので(特に長野県では目立ちます。前述した福寿草公園も開催地の一つですよ)、鑑賞を楽しむにはいい機会だと思います。
また、そこまで大っぴらにはやっていなくても、小規模でよければ福寿草は思った以上に色々な場所で鑑賞できます。
桜の花見と違って派手さはないですが、春先限定のイエローの小さい花が、ほんのりとした癒しを与えてくれるかもしれません。福寿草のおめでたさをかみしめながら、新しい年度へのスタートを切ってみてはいかがでしょうか。