受験勉強をする際、意外にやっかいな科目が現代文だ。
日本語で書かれているわけだからとっつきやすそうに見えるけれど、その分他の教科と違って解法がとらえどころがないためだ。
一見すると、ほとんどフィーリングで解くしかないようにも思えてしまう。
が、実際には少なくとも受験レベルの現代文では、フィーリングで成績差が出てしまうような問題というのはあまり多くない。
確かに、文章というのは読み手の嗜好に応じて解釈がわかれるような部分は多々あるし、だからこそ面白みがあるともいえる。小説なんて、その最たるものだろう。
けれど、こと受験現代文に関しては、あまりそういう要素は関係がない。
問われるのは、一般的な視点で見て「この文章にはまず、何が書かれているのか」を理解する能力に過ぎないからだ。
ごく一部の例外的な問題を除けば、文章の流れを的確に掴んでいけば、おのずと正解は出てくる。
それさえできていれば、受験の成否を左右するような差にはならないはずだ。
業界のパイオニア!出口汪氏独自の現代文の説き方
出口汪氏の言う「言葉の論理力」とは
わたしの知る限り、その文章の流れを掴む方法を、体系だったものとして組み上げたパイオニアが予備校講師・出口汪氏だ。
現在受験以外の分野にも幅広く進出されている出口氏だけれど、根本的な主張は以前から全く変わっていない。
それは、「言葉の論理力を磨け」というその一点。
論理力というとさも難しそうに思えてしまうけれど、出口氏の言うそれはシンプルだ。
どんな文章であれ、日本語という言語を用いて何かを伝えようとしている以上、そこには必ずルールと論理的な組み立てがある。
主語・述語の関係、指示語の使い方など、日本語のルールにのっとった上で、積み木を組み上げるように展開が練り上げられているのだ。それがなければ、そもそも見も知らぬ読者に何かを伝えることなどできはしない。
逆に言えば、一般的な文章であれば、まずそうした規則から外れていることはないため、適切なやり方さえ知っていればおのずと正確に解釈できる。そのやり方こそが、氏の言う論理力というわけだ。
論理が通用しないような問題は受験現代文には出ない
もちろん、世の中を広く見渡せば、実際にはこの理屈が成り立たない文章というのは存在する。
たとえば、一部の実験小説などの分野は、そもそも文章の論理などハナから無視しているし、そもそも「考えるな、感じろ」を地でいく存在なので読み解きもへったくれもない。
また、そこまでいかなくても、あからさまに文章展開がおかしかったり、要所要所で破綻している悪文も、本屋の棚を軽く冷やかすだけでいくらでも見つかるはずだ。
ただ、そんな文章は少なくとも受験現代文でお目にかかることはまずない。
解答に一定以上の幅が出てしまうような文章は、仮にそれが面白いものだったとしても受験問題の題材としては不適切だからだ。
論理的解釈力さえ身につけていれば現代文は説ける
だからこそ、受験現代文にでてくる数々の問題文は、難易度の差こそあっても、そのルールに乗っ取って丁寧にひも解いていけば、安定した解釈が可能だ。
書き手が論理的に語っている以上、読み手の側もそれに合わせてじっくり理解していけばいいだけ。
そのために、文章のルールを知り、論理的に読んでいく技術を身に着けよう…
要するに、出口氏の言っていることはこれだけなのだけれど、こと受験においてはこの考え方は革命的だった。
学校の教師でさえ「まあ、感性には個人差があるからね」の一言で済ませてしまうことさえあるのが現代文という科目だったからだ。
受験現代文の解き方の革命『現代文講義の実況中継』レビュー
高校以降の現代文は感覚だけでは乗り切れない
教師でさえそんな扱いなのだから、わたし自身、現代文については解法なんて意識したことはなかった。
勢いと感覚だけで解いていたし、それでなんとかなっていたのだ。
ただ、高校に上がったあたりから、それだけではどうにもならなくなってきた。
理由は単純明快で、難しい文章が増えてきたからだ。
もちろん解けることもあるけれど、理解が追っつかないのでどうにも安定しない。
どうにも行き詰まった時に出会ったのが、出口氏の『現代文講義の実況中継』(語学春秋社)だった。
これ、初版が出たのは相当古いのだけれど、大幅な改定を経た上で未だに版を重ねている超ロングセラーだ。
曖昧さがないから安定した解釈力が身につく
初めて読んだ時の衝撃はいまだに忘れない。
なにしろ、ノリで解くしかないと思っていた現代文に対して、その正反対の解法が当たり前のように説明されていたんだから。
ここには、感性といった曖昧な要素は入る余地はない。あるのは、ただひたすら、文章を論理的に解析し、それに沿った一般的解釈を導き出していく具体的な技術だ。
だからこそ、ブレがない。
こんな説き方があるのか、と感じ入ったのを今でも思い出す。
わたしと同じように、「昔は現代文得意だったのになあ…」とボヤいている人ほど衝撃を受けると思う。
一応当時実践した結果も述べておくと、これを一通り説き終えたあと、現代文に関しては成績の心配をすることはなくなった。
もちろん漢字などの知識が問われるタイプの問題での失点はあったし、制限時間内に解き終えられるかという問題もあるから演習は必要だ。
ただ、解釈についてはおおむね安定し、大外しをすることはまずなくなった。
一旦ここまでいければ、あとは練習すればいいだけなので楽なものだ。
自分の経験を踏まえても、現代文の受験参考書として、まず第一に目を通すべき伝説的な名著だと今でも確信している。むしろ、現代文の解釈に関しては、これ一つでいいほど。一通り理解出来たら、あとはひたすら赤本や問題集で慣れていけば、それだけでも十分形にはなるはずだ。
ちなみに、出口氏は最近では大人向けの高額な講座などもだされているけれど、そちらが気になる場合もまずはこの『実況中継』に目を通すべきだ。
受験前提の本ではあるけれど、言わんとすることのエッセンスは凝縮されているからだ。
一般教養の入口にも最適!出口汪氏の過激な近著もチェック
ちなみに、最後に出口氏の近著で目立つものにも触れておくと、『東大現代文で思考力を鍛える』(大和書房)がある。
「東大」とあるだけになんとなく受験的なイメージが強いが、こちらはどちらかというと教養書としての趣が強い。
その言わんとするところは、「東大の現代文問題は面白い」に尽きる。
一見官僚的な、糞真面目な印象の強い東大だが、その入試問題は、受験生に冷や水をぶっかけるような過激さに溢れている。
そんな、なかなか受験というイメージからかけ離れた問題たちをセレクトし、解説と、各著者にまつわるブックガイドを加えたのが本書だ。
問題集などではないので、受験生が本腰を入れるような本ではないけれど、勉強の合間の娯楽として読み流すだけでもなかなか刺激になると思う。
また、一般教養を身につけたい社会人にとっても、入口として最適な一冊だ。