怪談の気持ち悪い部分を凝縮した傑作『亡霊学級』

和製ホラーと言えば、まず思い浮かぶのは「怪談」だろう。
古くは上田秋成の「雨月物語」などにはじまるこの形式は、物語構造こそシンプルですが、それゆえのストレートな怖さがある。
そして、なにより独特の湿っぽさ。その雰囲気は、海外的な大胆なホラーではなかなか出せない、和製ホラーゆえの味といえる。

ただし、スパッと話をまとめることを前提とした構造上、長編には向かない。
短編だからこそ効果を発揮できるジャンルと言える。
だから、基本的に連載作品などにはむかないのだけれど…

つのだじろうの作風自体を変えたホラー集中連載『亡霊学級』

この「怪談」という形式を、連作短編かつ短期集中連載という形で最大限に取り入れた、黎明期のホラー作品が「亡霊学級」(つのだじろう)だ。
これがあまりにもウケたために、他記事でも取り上げた「恐怖新聞」を書く直接のきっかけになったという、つのだ氏にとってはターニングポイントとなった記念碑的作品といえる。

その内容はまさに「現代を舞台にした怪談」そのもの。
同じ恐怖モノとは言え、連載物だった「恐怖新聞」と違い、本作は一話ごとに完全に独立した話で、短いページ数の中でじっとりしたイヤ~な雰囲気の中、起承転結のメリハリの効いた物語が展開される。
また、オカルトであれば広範な話題を扱った恐怖新聞とは対照的に、幽霊話に絞り込んでいるのもその印象をさらに高めている。

ただ、もしそれだけなら、当時でさえ埋もれてしまったことだろう。「幽霊の怪談」というスタイル自体が、日本の物語づくりにおいては伝統ともいえるものなのだから。
本作が読者に大ウケしたのは、怪談の基本フォーマットは余さずとりつつも、それ以外のつのだ氏が取り入れたある特徴が大きかっただろう。
その特徴とは、本作題材や描写全般にわたり、とにかくひたすらに気色が悪いこと。
独立した単話構成だけに、さまざまなテイストのストーリーが軒を連ねているが、この1点だけは徹底して共通しているのがものすごい。

なかなか見ないレベルの気色の悪さ 亡霊学級のエピソード

第一話「ともだち」は話自体はオチの付け方まで含めて極めてオーソドックスな幽霊ホラー。
学校で、不穏な雰囲気のクラスメイトに追い詰められていく一人の男子生徒を描いたものだ。
不条理さまで含め、幽霊話といえばこうだよなあ、という要素を詰め込んでおり、これこそ和風ホラーだよ!という仕上がり。
主人公の追い込まれぶりがエグく、それだけに作中の異様な暴力シーン(絵の力を堪能させられます)はまさに感情の爆発という感じになっている。
後味もかなり悪く、作中の緊迫感がいつまでも胸に残る一品だ。

ただ、これはあくまでも出だし。
最初でオーソドックスなスタイルを提示したからか、第二話からはいよいよ「気色の悪さ」の方が全開となる。
基本、この作品は第二話・第三話が話題になることが多いのだけれど、それはそういう理由だ。

あんまり説明しすぎると楽しみがなくなるので内容についてはあえて省略するが、
第二話は、虫嫌いの人はもちろん、そうでない人でも食後に読むのは避けるべき方がいい一品。ホラーという以上にグロテスクなシチュエーションと雰囲気づくりが秀逸で、この点ではこれを超える作品はそうそうないだろう。
一方、第三話については、水死した先生を軸に物語が展開しますが、これを書くためにつのだ氏は某所から本物のドザエモンの写真を入手して作画したといういわくつきの作品。
話そのものは全話の中でも特に「学校の怪談」を地で行くオーソドックスなものだが、描写のリアルさと演出のうまさで魅せる一本になっている。

ホラー的な雰囲気が最高 少年向け怪談作品の「教科書」

単行本には全部で5話が収録されているが、正直4話以降はパワーダウン気味。
ただ、それまでの3話だけでも人気は絶大で、当時のチャンピオンでは3週連続人気トップだったそう。
もともと興味のある分野ではあったとはいえ、そりゃ、つのだ氏もホラーに転向もするよなあ。

何にせよ、少年向きの怪談作品としては、教科書と言ってもいいくらいの作品。
マイナーですが、この手のじっとり系が好きなら、一度は目を通してほしい。
ただグロいだけのホラーとは一線を画する、瘴気さえ感じる雰囲気作りの妙技が楽しめるはず。

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