少年誌らしくない少年マンガの草分け 寺沢武一『コブラ』

週刊少年ジャンプ。
漫画好きで、この雑誌に一度もご縁がなかったという人はまずいないでしょう。
ランキングシステムに代表される徹底した編集方針には賛否両論あるものの、国民的な名作・人気作をここまで多数、一つの雑誌が世に送り出したというだけでも驚異的です。

そんな少年ジャンプですが、現在のイメージとしてはまさに少年誌で、せいぜい萌え系諸作品か富樫氏がちょっとその範囲を乗り越えている程度。
少年誌の中でもターゲットがかなり若めってところで定着していて、同じ少年誌でもマガジンなどの方が対象年齢は高めってのが一般的な所じゃないかなと思います。
実際、この立ち位置は昔からで、わたしが子供だったころもそうした分析はなされていた覚えがあります。

ただ、そういうターゲティングにも関わらず、昔の…特に80年代の少年ジャンプはそこから明らかに外れた、それこそ大人向けの作品がひょこっと紛れ込んでいたりするのが普通でした。
時期によってはむしろそうした作品が(多いとは言えないまでも)掲載作品の決して少なくない割合を占め、メインを張るとまでは言えないものの地道に人気を稼いでいたりしていたのです。
もちろんマイナーなまま終わったものもありますが、テレビアニメ化されてメジャーに至ったものも少なくありません。

壮大スペースオペラ 寺沢武一『コブラ』あらすじ

そんな「大人な少年ジャンプ」の系譜を切り開いた作品のひとつが、寺沢武一氏の「コブラ」でしょう。
週刊少年ジャンプでの掲載終了後も、スーパージャンプなどの青年誌を転々としながら書き続けられた作品です。

内容は、宇宙海賊である主人公・コブラの活躍を描いたSFバトルアクション。
数年前に戦闘続きの海賊稼業に疲れ果てたコブラは、整形で三枚目に顔を変えた上に自ら記憶も抹消し、善良な一市民として暮らすようになっていました。
ですが、ほどなく彼は、サラリーマンとしての毎日に退屈を覚えるようになります。
そんなある日、暇つぶしに出かけたトリップムービー(脳を刺激することで望み通りの夢を見ることができる娯楽。VRの凄い版みたいなもんか?)を見に行ったことをきっかけに、状況は一変します。
脳が刺激されたこと、そして、たまたま海賊稼業時代の敵に出くわしてしまったことで、過去を思い出したのです。
結局、彼は再び、正当派海賊(作中ではいわゆる義賊的な立ち位置)として戦いの日常に立ち返っていきます…というのが基本の骨子。
連作で、彼の関わる宇宙を股にかけた事件のなりゆきが描かれます。

テイスト的にはルパン三世にバトルアクション色を大幅に強め、さらにSFテイストを大量に足したような感じ(ただし、原作ルパンのブラックな部分はなし)と言えば何となくノリはわかってもらえるでしょうか。
副題に「SpaceAdventure」とあるように、軽妙な掛け合いと、スペースオペラならではの壮大なスケールが売り物です。

馳星周氏もハマったド本格かつ巧みなオトナワールド

『コブラ』を一読してまず誰もが目を惹かれるだろうポイントが、その日本離れしたアメコミ直球の絵柄。そして、それ以上に徹底したアダルティーなテイストです。
特に女性キャラは、ほとんどのキャラがデフォルトでケツ丸出しのレオタード風セクシー衣装(それで下品に感じないのはさすがですが)。
当時の読者の衝撃は相当なものだったろうことは想像に難くありません。そりゃ、少年誌だと思って読んでいたらいきなりそんな絵がドーンと出てきたらビビるわな。
ただ、ツボにハマった人への影響力は相当なものだったようで、クライムノベルなどで有名な小説家・馳星周氏なども完全にのめり込んでいたそうです。

ただ、テイスト的こそかなり大人っぽいのですが、この作品、シナリオそのものは少年誌としてもツボを押さえてるんですよね。
一言で言うと、燃える。

これは、主人公であるコブラの親しみやすいキャラによるところが大きいです。
確かに賞金首ではあるものの、性格的にモロに「ヒーロー」で、思考回路そのものは一般人にも理解しやすい。
さらに、この手の作品にありがちな感情のわかりづらさがない。感情をあらわにする主人公はハードボイルドとしてみれば邪道ですが、その代わり感情移入がしやすいんです。
全体としてのテイストはアツい冒険譚といった風情に仕上がっていて、バランス感覚が絶妙なのです。

まさにトリップ!圧倒的な異世界感

それに加えて、この作品の見どころのひとつが、その圧倒的な異世界感です。
れっきとしたSFではある本作ですが、1話1話丹念に描かれる舞台設定は、どちらかというとファンタジーといった方がしっくりくるもので、話によっては幻想的でさえあります。
登場する異種族も、姿格好から生活形態まで様々ですが、そんな異種族が普通に交流する姿は、SFというよりも往年のRPG「ウィザードリイ」を彷彿とさせます。
そのいずれにしても言えるのが、どうすりゃこんな発想出てくるんだってくらいの奇抜さ。
そうした世界観のイメージに浸りきるのが、本作の大きな楽しみ方のひとつです。

コブラが覚醒するきっかけになる前述のトリップ・ムービーですが、読者にしてみればこの作品自体がトリップムービーと言えるかもしれません。
少年誌ならではの興奮度の高さとファンタジックなイメージが絡み合う様は、モロに「トリップ」って単語がぴったりはまりますから。
単行本を一気読みして顔をあげれば、それこそ大旅行でもしてきたかのような、心地よい疲れを味わえることと思います。

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