『ウィザードリィエクス』感想 国産Wizきっての異色作の本質

もう15年以上前のことになる。GWだった。
その年のGWは晴れの日も多くて、青空が爽やかな気持ちのいいお休み。
レジャーにはうってつけだったから、
世間は旅行や、そこまでいかなくてもお出かけにいそしんでいた。

GWを丸々潰させた思い出のドハマリRPG『ウィザードリィエクス』

で、そんな中私が何をしていたかというと、
家で延々RPGのレベル上げ。

仕事が休みだからこそできる過ごし方なのは確かだったけれど、
今思えばGWの使い方としては、
かなりランキング下位に位置するだろうことは疑いようもない。

ただ、だからといって、つまらなかったわけではもちろんない。
幸せだった。

興味のない方からみれば無味乾燥以外の何物でもないだろう
モンスターたちとの戦闘をただただ繰り返しながら、
わたしは食事をとることさえも忘れた。

いつの間にか日が暮れ、またいつの間にか朝が来る。
その時間の経過が、とてつもなく早かった。
睡眠もいつの間にか少なくなっていたけれど、
熱中するあまり疲れさえ感じなかった。
その思い入れっぷりは、それこそ適当に作ったマイキャラでも抜けそうな(失礼!)勢い。
そんな日々が、GWが終わって仕事が始まるまで延々と続いた。

今思えばあのままハマっていたら肉体的にヤバかった気もするけれど、
あの時の充実感は、今でも忘れられないほどに記憶に鮮明に残っている。

それほどの没入感をもたらした思い出のゲームが『ウィザードリィエクス』。
PS2で発売された3Dダンジョン形式のRPGです。

『ウィザードリィエクス』の仕様と元祖シリーズとの比較

ウィズフリークによるウィズフリークのための国産スピンオフ

RPGの元祖ともいわれる海外RPG『ウィザードリイ』の名を関してはいるものの、
こちらは国産品。
ライセンスを借りてきて独自に作られたもので、
外伝・スピンオフに近い位置づけの作品です。

開発はTeam MURAMASA。当時はゲームメーカー・マイケルソフトの社内チームで、
その後独立した後は株式会社エクスペリエンスとして
『円卓の騎士』などウィザードリイライクな作品を
多数リリースしています。

おそらくは製作者自身も原作にハマった口なのでしょう、
元祖シリーズへの思い入れがにじみ出ています。

箱庭ゲー・スマホゲーにも通じる原典『ウィザードリィ』の作品性

まず、もととなった原作シリーズについて触れておくと、
レベル上げやアイテム集めの面白さに特化した作品で、
基本設定こそあるものの
実質的にはストーリーといえるようなストーリーは存在しません。
やることはキャラメイクを行ってパーティを組んだうえで
ダンジョンに潜り、ひたすら敵と戦い、
キャラの育成・アイテム集めをするだけです。

ただ、そうした作品だけに、
敵の強さや配置などが非常に練られており、
戦闘そのものの楽しさが味わえるようになっているのが特徴。
また、コレクション嗜好をそそるレアアイテムが多数用意されており、
当時から血眼になって集めるプレイヤーを量産したとされます。

また、ストーリー性があまりにも薄いゆえに、
逆に想像の余地が多数あること、
また、育成主体なだけに自作のキャラに思い入れが生じやすいことなどから、
ファンによる二次創作も多数発表されているのも特徴。
有名なところでは小説家のベニー松山氏や馳星周氏(当時の筆名は佐山アキラ)などが
小説をJICC出版局(現宝島社・現在は絶版)より発表しています。

以上のような特徴から、
今考えると一種の箱庭ゲーム、もしくはスマホゲーに極めて近い部分があると言えるでしょう。
もちろんネットワーク要素こそないものの、
ハマるポイントが非常に似通っています。

ただ、当時はいかんせんテレビゲーム自体が黎明期。
その時代にこの内容ですから、第一印象は非常に地味でした。
実際わたし自身、元祖シリーズには興味はひかれたものの、
あまりの見た目の地味さに、
当時は内容を理解する前に辞めてしまった記憶があります。

原作に華やかさを付加した、時代相応の発展形

では『ウィザードリイエクス』はどうかというと、
ゲーム性の上では恐ろしいほど元祖シリーズに忠実。
戦闘・レベル上げ・アイテム収集に特化したバランスから、
ストーリー性の薄さまでみごとにそのままです。

それでいて、元祖の地味さは
時代相応に払しょくされているのがポイント。
もちろん、元が元ですからPS2のゲームとして考えてしまえば
相当地味な部類にはなってしまいますが、
それでもファミコンや初期のPCの時代に比べたら雲泥の差です。

また、キャラメイクは
キャラクターの顔のパーツも作成できるようになっています。
福笑いのように目などの各パーツの雛形を組み合わせていく方式なので
不自然な顔になってしまうパターンも多いですが、
これだけでも見た目的にだいぶ華やかになっています。

さらに言えば、種族も人間やエルフといった定番種族の他にも
ディアボロス(悪魔とのハーフ)やフェアリー(妖精)など、
職業も召喚士・超術士など、初期シリーズにはなかったものが
大量に追加されているので、
自分なりの思い入れを反映できる余地が大きくなっています。

一言で言えば、地味な原作に華やかなデコレーションを施した
発展形と考えてよいでしょう。

短所も大きいが、面白さの根幹だけは全くはずしていないのが凄い

『ウィザードリイエクス』発売時に話題をさらった問題点の数々

ただし、発売当時にも話題になったのですが、
本作は問題点も大きい。

まず、ウィザードリィという硬派なシリーズの派生作品でありながら、
「学園もの」であること。
学園とはいっても軍事学校なので、
まったく脈絡がないというわけではないのですが、
雰囲気的には他のWizからはかけ離れています。

この時点で、シリーズファンは不安を覚えるところですが、
問題は学園ものとしても中途半端なこと。
ストーリー性を敢えて薄くしているため、
やむを得ないことではあるのですが、
これによって「学園もの」というジャンル特有の臭い雰囲気だけが、
まるでそこだけ抽出されたかのように残ってしまっています。

それ以上に問題なのが、広告の売り文句。
「一生遊べる」と謳い、
大量のマップパターンや敵の種類が書き連ねてあるのですが、
マップは座標をずらしただけの水増しが非常に目立ちますし、
敵に至ってはただ色やレベルをいじっているだけ。
仕様だけを見るなら、他のRPGよりもよほど貧相です。

また、先に「PS2としては地味」と書きましたが、
実はこれはかなり控えめな書き方で、
実際にはグラフィックなどは
初代PSの作品と比較しても貧弱なレベルです。

熱中度に関わる部分は手抜きなし

とはいえ、それでも熱中度が変わらないのは、
原作の面白さの根幹となる部分、つまり、アイテム集めのやり甲斐だったり、
レベル上げの快感だったりという部分だけは
まったく手が抜かれていないからです。

戦闘のバランス調整は(難易度の高さは大前提として)よくできていますし、
なにより何度も試行錯誤しやすくするための
ソフトリセットからの復帰などは
わたしの知る限りPS2でもトップクラスに早い。
全編にわたり、緊張感をもちつつ、快適なプレイが可能です。

つまり、「抑えるべきポイントだけは外していない」のです。

考え方次第では、短所も許容範囲内

また、ウィザードリイというシリーズの特性を考えると、
先に述べた短所は、ある意味では枝葉の部分とも言えます。

確かに独特の雰囲気はあるものの、
プレイ時間の大半は昔ながらのダンジョン探索なので、
割り切ってしまえばさほど気になるものではありません。

マップパターンの水増しについても、
これが問題なのはあくまで広告上の話
(褒められたことでないのは言うまでもありませんが)。

水増しなしの純粋な数でもそこそこの数は確保されていますし、
なによりひとつひとつのマップがかなり難易度が高いため、
少なくとも攻略し甲斐の面では納得できる範囲です。
そもそも原作からして、マップパターンの数自体は
そこまで大量というわけではなかったのですから。

広告が広告だけに
印象の落差から必要以上にしょぼく感じてしまいがちですが、
ウィザードリイというシリーズの醍醐味を
味わうという一番の目的は、
充分果たせていると考えます。

完成形をプレイしたいなら後継作もおすすめ

最後に、本作のこうしたシステム的な不満点については、
続編である「2」で見事なまでに調整されています。

言ってみれば決定版といえる出来なので、
いまから始める機会があるならそちらがおすすめです。
続きものではありますが、ストーリー性の薄さが幸いして、
いきなり2作目からでも設定は十分理解できるでしょう。

また、PS2ということでプレイが難しい場合は、
PCや後継機種向けにでている『迷宮クロスブラッド』なども
試してみる価値があるでしょう
(ただ、システムの関係上、個人的にはエクス2の方が好きです)。

『2』や関連作も含めての話ですが、
少なくとも、見た目の軟派さで食わず嫌いをすべき作品ではありません。
見た目は硬派でも本質部分で失敗している派生作がWizには少なくありませんが、
本作の場合はまさにその逆を行きます。本質はまさに元祖Wizそのものなのです。
原作にハマったことがあるなら、一度は試してみるべき一品といえるでしょう。

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