その方角違ってますよ?恵方巻きの由来と現状と意義を考える!

正月が明けてしばらくすると思い出したようにやってくるのが恵方巻きのシーズンです。

筆者の住む周辺のコンビニでも、普段おにぎりが置かれている棚に割り込むように、カラフルな恵方巻きが大きくスペースを占領するのが毎年の恒例行事になっています。コンビニの棚をみるだけでも華やかな気分になるので、個人的には割と好きなイベントです。

恵方巻きという名前の食べ物は存在しなかった

さて、恵方巻きは最近では幸せを祈る定番の行事になっています。節分と同日にやることもあってか、古くからの信仰のようなイメージを持っている人も多いかもしれません。

ところが、子供の頃恵方巻きという名前を耳にしたことがあるかと考えてみると、多くの方が首をひねるはずです。

これは、1998年以前には、恵方巻きという名前の食べ物は存在していなかったからです。恵方巻きという名前は、この年にセブンイレブンが、節分に食べる太巻き寿司を全国に売り出すに当たって命名したものなのです。

ちなみに「恵方」とは、陰陽道の考え方で、その方向に向かって行動すれば万事において吉とされる方角のことです。

「節分の太巻き寿司」が全国に広まるまで

もっとも、節分に幸せを祈って太巻き寿司を食べるという習慣自体は、昔から関西地方を中心に確かに存在してはいました。

ただ、これもカッチリ根付いた行事という訳ではありませんでした。戦後の一時期には廃れてしまったりと、かなり細々と生きながらえてきた習慣です。

また、何故寿司を食べるようになったのかという由来自体、色々な説が存在しており、はっきりしていません。敢えて言えば、大阪の商人たちが商売繁盛や厄払いを目的に始めたという説が、根拠は薄いものの、今のスタイルには一番近いかもしれません。

そんなイマイチはっきりしない行事だった「節分の日の太巻き寿司」ですが、70年代あたりから海苔業界が売上を上げるために積極的に販促を行ったことから徐々に西日本に定着していきます。全国に広がったのは、98年以降のコンビニの販促によるものです。

つまり、恵方巻きは言ってみればバレンタインなどと同じく、業界的な売り上げアップキャンペーンが作り上げた習慣、といっても言い過ぎではないのです。

店頭広告の方向だと間違い(厳密には)!恵方巻きを食べるべき方角

元々の由来が曖昧な上に、キャンペーンという人為的な形で広まった経緯もあって、現状、恵方巻きは作法の面ではあまりカッチリとはしていない傾向にあります。

特にそれが出ているのが方角。

恵方巻きはその年の恵方を向いて食べることになっています。そこでコンビニやスーパーに貼られた広告などを見ると、東北東だったり南東南だったりと、その年の恵方の方角が説明されています。

が、これは厳密に言えば間違いです。正しく言えば甲(きのえ)の方角となります。これを東西南北で無理やり言い換えると真東と東北東の間ということになります。

使われるのは24方位、恵方の方角は四種類

まず、恵方を考える上では、占術で用いられる24方位が軸になります。この24つの方向のうち、「甲」「丙」「庚」「壬」の4つの方位のいずれかが、年ごとに一定のルールに基づいて恵方となる仕組みなのです。

ところが、一般的にお店などで説明されている「今年の恵方」で使われているのは「東北東」などの16方位。つまり、この時点で厳密な角度とはズレが生じてしまうのです。

では厳密にはどの方向が正しいのかというと、具体的には

「店頭広告で説明されている方位から、時計回りに7.5度ズレた方角」

です。たとえば、店頭広告の「今年の方角」が「東北東」となっていた場合、「東北東から7.5度東寄りの方角」が正しい恵方の方角となります。

もっとも、お店の説明が曖昧だからといってどうこう言う気にはなれません。お客さんに対してこんな見るからにややこしそうな説明をしていたとしたら、恵方巻きもここまで広がらなかったでしょうから。

算出は簡単!恵方の方角の決め方

せっかくなので、次に年ごとの方角の決め方についてもお伝えします。とはいっても、複雑なものではなく、算出するのは簡単です。

恵方は、十干という十年周期の暦に基づいて決められています。十干は「甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸」の10種類からなっており、順番にそれぞれの年に1種類が割り振られます(10年で一巡)。

そして、恵方は、その年に割り振られている十干がどの種類かに応じて、「甲」「丙」「庚」「壬」の4方位のいずれになるかが固定で決められています。つまり、その年の十干が何か、だけ分かれば、恵方も自動的にわかるというわけです。

ここでポイントとなるのが、十干が10年周期で順番に巡ってくるという点。つまり、西暦の1の桁の数字ごとに、対応する十干も固定されているため、自動的に恵方も決まるということです。

たとえば、2021年なら、末尾の1の桁の数字は「1」。この場合十干は「辛」なのですが、これは以降、末尾が「1」の年である限りは、どの年でも変わりません。つまり、2031年も2041年も十干は「辛」なのです。

と、ここまで説明してきましたが、これ以上言葉だけで説明してもわかりづらくなると思うので、具体例としてここ数年間の恵方を表にしておきます。ご参考までに。

西暦 西暦1桁目 節分 十干 恵方 角度
2021年 1 2月2日 南南東より7.5度南寄り 165度
2022年 2 2月3日 北北西より7.5度北寄り 345度
2023年 3 2月3日 南南東より7.5度南寄り 165度
2024年 4 2月3日 東北東より7.5度東寄り 75度
2025年 5 2月2日 西南西より7.5度西寄り 255度
2026年 6 2月3日 南南東より7.5度南寄り 165度
2027年 7 2月3日 北北西より7.5度北寄り 345度
2028年 8 2月3日 南南東より7.5度南寄り 165度
2029年 9 2月2日 東北東より7.5度東寄り 75度
2030年 0 2月3日 西南西より7.5度西寄り 255度

※表の中の「節分」欄はのちほど説明します。

※「角度」欄はコンパスで北を0度としたときの時計回り角度です。

恵方巻きはいつ食べるのが正解なのか

作法があまりカッチリしていないと書きましたが、この手の縁起を担ぐ行事は、いつ、どのようにやるのか程度は、ある程度幅はあるにしても明確にされているのが普通です。では、恵方巻きの場合はそのあたりはどうなっているのでしょうか。

節分は年によって変動する!

まず、食べる日についてですが、これはさすがに明確で、「節分」に食べることになっています。

ただし、これが曲者で、節分の日というのは年によって異なる可能性があります。

一般的に、節分というと2月3日を思い浮かべますが、節分の定義は「立春の次の日」。そして、立春というのは太陽の動きに応じて国立天文台が発表する暦によって決まることになっています。言い換えれば、太陽の動き次第では日付がズレることも普通にありうる、ということです。

そうはいっても、さすがに定着しているだけに2月3日になる年が多いのですが、何年かに1回の割合で2月2日になる年があります。

具体的に挙げると、ここしばらくでは2021年、2025年、2029年が2月2日になると見られています(あくまで現時点での予定で、観測の結果次第で変動する可能性があることにはご注意下さい)。

時間帯はきまっているのか?

次に、時間帯については明確なルールは定められていないとする意見が一般的です。

一応夜に食べるべきとする説はあるものの、時刻までは言及していない。というか、そこまでハッキリした定説がないのです。それに、本場である関西で、恵方巻きの丸かじりイベントが真っ昼間に行われている時点で、そこまで意識されていないのでしょう。

もし気にされるにしても、夜というところだけ意識すれば問題ないかと思います。仕事をしていれば自然とそうなるでしょうし、縁起をかついだおめでたい晩御飯と思えば、ありがたみも湧くのではないでしょうか。

恵方巻きには食べ方の作法はある?

また、使う食材や食べ方なども厳密に決まっているわけではありません。

一応一般的には、

7種類の食材を使い、
切らずに、
願いを思い浮かべながら丸かじり、
かつ食べている間はしゃべらない、

というのが定着しているようですが、異説も多いです。
そもそもそこまで気にされたことがないという方も多いでしょう。

幸せを求める機会というだけで価値がある

このように、一見格式ある行事のように思われながら実はかなりアバウトというのが、恵方巻きの現状と言えます。

ただ、逆に恵方巻きが広まったのは、むしろアバウトさが許されたからではないかとも思うのです。仮に恵方を東北東と言わずに甲の方角と言っていたら、敷居が高くなり現在のようには広まらなかったでしょう。

それに、幸せを祈るという普段なかなかありえない趣旨のイベントが定着したというのは、広がった過程や現状ははどうあれ決して悪くないことだと思うのです。純粋に幸せを願えるイベントなんて、初詣など数えるくらいしかない希少な機会なのですから。

売上目的という、俗な目的の産物だったはずの恵方巻きが、結果的にその貴重な機会を提供してくれているという事実は、素直に喜ぶべきことなのではないでしょうか。

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