ポジティブな人生論という奴がどうにも苦手だ。
根がネガティブな私は、文章の一つ一つになんとも名状しがたい抵抗感を感じてしまうからだ。
そんなにうまくいくわきゃないだろう、と。
クサいのはいいとしても、これだけはどうにも辛い。
とはいえ、敢えてそういう本を読むことは多い。
自分でもなんとかしたいとは思っているからだ。
とはいえ、なんせ物心ついたころにはすでに将来を悲観していたという筋金入りのネガティブな私には、なかなか刺さるものがないのもまた事実。
ヒントくらいは得られるからそれなりのご利益はあるのだけれど、サクッっと刺さってくることはそんなに多くない。
そんな私が、これは、と思った数少ない一冊が、『幸せになる力』(清水義範/ちくまプリマ―新書)だ。
内容はほんとにタイトル通り。
幸せになる、とはいっても、いわゆる夢のような幸せをここでは意味しない。
なんだかんだで日々そこそこ面白いわなあ、と感じられるような、ささやかな幸せだ。
筆者である清水氏は、それを誰にでも手に入れられるものとする。
では、どうすればいいのか。本書は、そのためには必要な力があるとする。
その「そこそこ人生を楽しむ」ための5つの力とは何かを、語りかけ口調で解説したのが本書だ。
ジュニア向け新書ということもあり、本書の主な想定対象は小中学生がメイン。
それだけに語りはやさしく、これ以上ないほどかみ砕かれている。
まず、先に書いておくが、世のポジティブ人生論の例に漏れず、本書もかなり理想化されている部分は否めない。
子供の立場で読んでみても、たとえば親が基本子供の幸せを願っているという前提に立っているため、(割合としては少ないにせよ)不幸にもそれに当てはまらない子供が読んでしまったら恐らく怒りに震えるだろう。
まして、既にひねくれてしまった大人が読んだ場合は、なおさらだ。
ただ、だからと言って本書のある意味で恥ずかしげもなく開陳される性善説は、決して後味が悪くない。
というのは、本書は前提や目指すところこそ理想論なものの、どうすればそうなれるのかという肝の部分において、本書は決して甘々ではないからだ。
よくある話のように、ただ夢を追えを煽るだけではない。
むしろ、自分に何ができて何ができないのか、それをひたすら見極めろと説く。
期待というバイアスのかかってなんでも希望通りなどと錯覚した親の意見などよりも、よっぽど現実的だ。
さらに言うなら、きれいごとだけではどうにもならないことに対しては、ちゃんと断りを入れているあたりも好感が持てる。
本書のいいところは、この現実性と理想論のバランスが、非常にいいことだ。
それに、内容そのものも、子供でも分かるようにシンプルにはなっているものの、実は大人向けのこの手の本で語られていることと大差ない、しかも根本の部分はしっかり押さえている。
理屈の上でも語り口の上でも、説得力があるのだ。
だから、あまり引っ掛かりを感じることなく頭に流れ込んでくる。
受け入れやすいのだ。
文字ベースではあるけれど、この流れ込み方は、感覚としてはセミナーに近い。
練り込み度の面では、この手の本としては飛びぬけて丁寧といっていいだろう。
そういう意味では、できれば子供の時に出会っておきたかったという思いはぬぐえない。
いくら品質が高くとも、今となっては、どうやったって子供のような素直な目線では読めないからだ。
とはいえ、これだけ簡潔にまとめてくれれば、読み返すのはたやすいし、心にも響く。
折に触れて初心に返るには、うってつけの一冊だろう。
簡単に読み返せないほど分厚くて難解な自己啓発書なんぞよりも、お守りとしての効果はよっぽど絶大だ。
こうなれば確かに、幸せを感じられるようになるだろう…そんな指針が、確かにここにはある。
ちなみに、本書では基本は子供向けながら、要所要所で明らかに大人に向けたメッセージが挟まれる、
親に読んで欲しいというのだ。
実際、私もそう思う。これで感銘を受けて育て方を真剣に考える親がどれだけいるかは、知らない。
ただ、こんな風に育つ子供が増えれば、世の中は確かに、多少なりとも変わっていくだろう。