勉強を何とか効率化できないか。
資格試験でも受験でも、こうした願望を抱いたことが一度もないという人はまずいないでしょう。
実際、それを証明するかのように、様々な効率的勉強法がリリースされています。
そんな勉強法の中に、「まず最初に解答を見て覚えてしまう」という方法があります。
この方法、確かに一見スムーズに進みそうなのですが、実際のところ効果はあるのでしょうか。
この記事では、わたし自身の実体験を踏まえて、この「解答丸暗記勉強法」を実践する上での問題を指摘していきたいと思います。
「解答丸暗記勉強法」を実践した結果
最初に、わたし自身の結論を書いてしまいましょう。
「うかつに信じ込むと逆効果」です。
ただし、これには少々注釈が必要です。
受験時代、藁にすがるつもりで試した「効率的」勉強法
わたしがこの勉強法を実践したのは、ご多聞に漏れず、受験時代です。
最近では大学全入時代などと言われていますが、その当時はまだ受験生も多かった時代ですから、受験は熾烈を極めていました。
それだけに、今以上に効率的勉強法について解説した本(当時、ネットはまだそこまで普及していなかった)があふれていた覚えがあります。
その当時のわたしはというと、高校入学後に成績が大きく落ち込んだまま、回復することができない状態でした。
進学校と言われる高校に入学したまではよかったのですが、それと同時に無気力状態に陥ってしまい、そこで大きく授業の内容を取りこぼしてしまったのです。
一年ほどたってなんとか気力を取り戻した頃には、もう取り返しが効かないところまで授業が進んだ後でした。
なにしろ、授業を聞いていても、何を言っているのかがほとんど理解できないのです。入学直後が嘘のようでした。
なまじ進学校だったため、高校の進度が早すぎたのです。
もちろん机には向かうのですが、一旦ついていけなくなった内容を取り戻すのは至難の業でした。
数ヶ月経つころには、わたしは既に嫌気がさし始めていました。
このままやっていても、どう考えても授業に追いつけるようには思えなかったからです。
それを実現するためには、なんとか勉強の速度を上げる必要がありました。
そこで目を引かれたのが、本屋に並ぶ効率化を謳った勉強法の数々だったというわけです。
もちろん、いきなりそんなうまい話を全面的に信用したわけではありません。
ですが、チェックする程度の価値はあるように思えたのです。
解答丸暗記のやり方 理論自体は問題ないが…
その時目を通した本のいくつかに書かれていたのが、この記事の本題である「答えを先に見てしまえ!」という方法でした。
やり方は特に説明する必要もないでしょう。
ハナから問題を解こうとせず、いきなり解答を読み、そしてそれを頭に叩き込んでしまう。それだけです。その時読んだ本では、とにかくノートに書き写しまくれとありました(最近もまた同種の本はでているようなので、そちらではまたやり方は変わっているかも)
一見不真面目に見える方法ではあったものの、複数の本に書かれている以上、それなりに根拠がある方法ではありそうです。
それに、迷信めいた方法などと違って、要は答えを覚えてしまえば回答することはできるという当たり前の理屈です。
単純明快、変なごまかしが入る余地もありません。
納得した私は、早速その日から問題集の解答ページを開き、「解答の丸暗記」を始めたのです。
覚えられない暗記はただの無駄
その結果どうなったか。
結果から言うと、3か月後、わたしの成績は前にもましてボロボロになっていたのです。
手を抜いたわけではありません。
単純に、解答を覚えようにも全く頭に入らなかったのです。そんな覚えられもしない暗記に力を注いだ結果、ただ単に時間を浪費してしまった。
その間、それ以外の勉強は全く切り捨てていたわけですから、成績が落ちて当然です。
結局、すぐに勉強法を見直して地道にやりました。
その結果、最終的にはわたしの成績は持ち直していきました。
つまり、わたしにとっては「解答丸暗記」勉強法は時間の無駄遣いに過ぎなかったわけです。
「解答丸暗記勉強法」実践上の課題と問題点
ただ、私はこの勉強法を全否定する気はありません。
というのは、「解答を丸暗記すれば問題に答えられる」というロジックそのものは、確かにその通りだからです。
ただ、このロジックが成立するためには、前提として「解答を丸暗記できる」ことが前提になります。
そして、わたしがそうだったように、この暗記方法自体が極めて難易度が高いのです。
自分の経験を踏まえて言うと、本勉強法を実践しようとした際の関門は2つあります。
解答を読んでも理解できない、では実践不可能
第一に、この方法を実践しようと思ったら、解答を見た時にそこに書いてあることが理解できることが必要です。
これを満たしていなければ、どんなに詳細な解説が書かれていようと、それは文字の羅列にすぎません。何の意味もない(ように見える)文字列を覚えようとするのは、普通に英単語や数式単位で覚えようとする以上に無謀でしょう。
それで覚えられるのであれば、一種の天才です。
逆に言えば、解答を理解できるだけの土台の知識は身につけておかなければならないのです。
土台の力がないと応用が効かない
第二に、問題のパターン化ができるだけの応用力が必要であること。
この勉強法だと、確かに一つ一つの問題の解法はすぐにわかります。
ですが、当たり前ですが問題というのはちょっと細部をいじっただけでも無数に作ることができます。
従って、一問一問の答えを単純暗記しても何の意味もありません。
「この解法はこのパターンの問題で使える」というところまで落とし込めないと、意味がないのです。
つまり、「この問題はこのパターンの問題だな…」と一般化して仕分けできるだけの実力は必要ということです。
さて、ここまで読んでどう思いました?
「それができるような力があるなら、普通の勉強法でいいんじゃないか?」と思ったのではないでしょうか。
その通りです。
ハッキリ言って、この勉強法は、ハナからそれだけの実力がないとまるで使いこなせないのです。
少なくとも、実戦当時のわたしのような「そもそも授業で喋っていることがまるで理解できない」というようなレベルでは、無駄骨に終わるのがオチ。
まだ最初から初心者向けの単語集なりドリルなりをやった方が、はるかにマシです。
解答丸暗記が使える場面は?
では、逆にこの勉強法が使えるシーンはというと、どんな場面なのでしょうか。
すぐに思いつくのは、一旦それなり以上の土台ができている受験生が、少しでも多くの問題パターンの解法に触れておきたいという場合です。
このパターンの場合は、確かにこの勉強法は有効。問題ひとつひとつにバカ正直に当たっていると、どうやってもある程度の問題数にあたったところでタイムアップになってしまいます。その点、この方法だと短時間で比較にならないほど大量のバリエーションに出会うことができます。
当然、これまで見たことがないパターンの問題とその解法に出会える可能性は上がります。
だから、ある程度力が付いたところで、実力の底上げとして使う分にはアリでしょう。
ただ、その場合でも、最終的には一度は演習で試さないと実際の入試で使うのは難しいと思いますが。一部の特殊な才能がある人を除けば、結局、実際に解いてみないと体得はできないという点は変わらないはずです。
「受験は暗記」という現実を認識させるという点では価値がある
ということで、なんとも夢のない結論になってしまいました。
ただ、この勉強法において注目すべき点が一つあります。
それは、「受験はしょせん暗記」という、冷徹なまでの割り切りです。
現実の受験という目的だけに絞って言うなら、これは正しい。
だから、その暗記の方法をどうするか、という違いがあるだけなわけです。
そこさえ割り切っておけば、たとえ地道な正攻法であっても、やるべきことは自然に絞られます。
万人向けとはとても言い難い「解答丸暗記勉強法」ですが、最大の意義は、そうした事実を嫌でも意識させることにこそあるのかもしれません。
もっとも、本来の意味での「勉強」が目指すべき姿と相当ズレているのも事実ではありますが。